『かんぽスコープ Vol.162』に掲載されました
ドリルが開ける穴を売れ。
現在の事業を強みに変える業態変革の発想法。
時代の変化に事業をどう合わせていくか、悩んでいる経営者も多いことでしょう。 そこで、変革を考えるヒントに、株式会社ワークスマイルラボの事例を紹介します。
マーケティングの世界に、「ドリルを買う人は、ドリルではなく穴を欲している」というセオリーがあ ります。ドリルは単なる手段にすぎず、顧客が真に求めているのはドリルがもたらす効用。この言葉そのままに、同社は、事務機販売から、働き方のノウハウ販売へと変革を遂げました。 一度は倒産の危機に瀕し石井聖博社長の苦闘を通じ、サバイバルの要点を操ります。
不渡り寸前から、業界の変革者の道へ。
「設立後、約半年間で20社に達しました。年内(2023年内)に50社、来年中に200社が目標です」
これは、ワークスマイルラボが22年10月に設立した「中小企業働き方支援協会」の加盟社数同社が開発したビジネスモデルワークスタイル提案を全国の業者に広げ、事務機販売の業界全体の業態をも変えようとしている。
この現在地に至るまでの石井氏の 歩みをたどってみよう。
事務機販売は、同じ材を扱っているため価格競争が避けられない。 石井氏が1996年に入社した石井事務機センター(ワークスマイルラボの前身も、そんな消耗戦に苦しんでいた。その後、リーマンショックを経てはさらに悪化し、11年、家業は倒産の一歩手前まで追い込まれた。
「不渡りを出す寸前でした。会社の土地が売れて、ひと息ついたのですが、支払いで余ったお金を融資の返済に充てたのでは、次の展望が開けません。 銀行に「このお金を新しいことに使わせてほしい」と頼み込んで、何とか了承してもらいました」
その資金を活用し、パソコンのサポートなど新たな取り組みを開始。キャッシュは回り始めたが、一方、旧来の事業にこだわる父親(当時の社長)との確執が深まった。 「会社が一体にならなければ再建できない」と考えた石井氏は、15年、父親を説得し、代表権を譲ってもらった。
業態変革の気づきをもたらした転機。
このとき、事業承継を陰で支えた銀行から、「ビジネスの新機軸を打ち立ててほしい」と、若い社長へ期待が寄せられていた。
「でも、そう簡単に新しいビジネスモデルが見つかるわけがありません。 悩んで試行錯誤している中で、ふたつの転機がありました」
ひとつは、ある顧客から「至急、パソコンが欲しい」と電話が入ったときた。
石井氏は、この顧客が少し前にパソコンを入れ替えたことを知っていたので、怪訝に思って尋ねると、「動作が遅くて効率が上がらない。メーカーは問わないから、とに かく速いもの」との要望だった。
「そこでピンときました。 このお客さまは、高性能なパソコンが欲しいわけではない。より生産性が高い働き方を求めているんだと」
この気づきを基に、石井氏は、「より良い働き方を提供する」と自社の事業価値を定義し直した。…